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半蔵の心得

第24回 若手人材を惹きつける企業の共通点(前編)

 先日、クルミドコーヒーを経営している影山知明さんの講演を聞く機会がありました。この講演を聞き、今まで頭の中でモヤモヤしていた霧が一気に晴れました。

 クルミドコーヒーは西国分寺にあるクルミをテーマにしたカフェで、食べログのカフェ部門で全国1位になったこともあります。店主の影山さんは東京大学法学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画した後にカフェを開いた、異色の経歴の持ち主です。

 影山さんは著書『ゆっくり、いそげ』(大和書房)の中で、クルミドコーヒーは「お金だけではない価値を交換する場」なのだと語っています。「人を利益を得るための手段にしない」新しい経済の形を目指して試行錯誤を重ねて、多くの若者の支持を得ています。影山さんの考え方は、現在の日本や世界の国々が抱えているさまざまな問題を解決するための糸口になるかもしれません。

 今回は、若者が魅力を感じる企業や仕事のあり方を考察し、これからの社会や経済のあり方を考えてみたいと思います。

今の若者は、何を望んでいるのか

  最近、「今時の若者は安定を好む」「保守的だ」という分析をよく目にしますが、これは本当に正しいのでしょうか。

 確かに、東洋経済オンラインの「就活後半に選んだ『就職人気企業ランキング』」(2019/08/09)によると、1位は全日本空輸(ANA)、2位は伊藤忠商事、3位はJR日本でした。ベスト10にランクインしているのは、いずれも老舗と言える大企業ばかり。50位内にランクインしたベンチャー企業は42位のHIS46位のアマゾンジャパンだけでした。

 調査するサイトによってランクインする企業の顔触れは変わるものの、ベスト10に入るのは老舗の大企業ばかりという点に変わりはありません。

 ところが、同じく東洋経済オンラインが行った「新卒3年後の離職率が低い会社100」(2019/04/22)では、就活人気ベスト10内に入っている企業でランクインしているのはJR東日本(40位で離職率約3割)だけ。1位と2位のANAと伊藤忠は入っていません。つまり、定年まで働くのが目的で会社を選んでいないのだと考えられます。

 そして、転職、求人サイトのdoda(デューダ)が2019年に行った調査によると、転職人気企業ランキングは1位グーグル、2位トヨタ自動車、3位楽天、4位ソニー、5位アマゾンジャパンと、外資系企業がランクインしています。

 注目すべきはその企業を選んだ理由で、5060%近い人が「やりがいのある仕事ができそう」「社会や人のために仕事ができそう」「人間関係がよさそう」「プライベートを大切にできそう」といった理由を挙げています。これは裏を返すと、今の会社に何も知らずに新入社員として入社し、しばらく働いてからそのような不満を持つようになったということに他なりません。

 もちろん、「給料・待遇がよさそう」も理由の一つとして選ぶ人もいますが、それだけが転職の条件ではないようです。さらに「安定して長く働けそう」を選んでいる人は1020%台なので、定年まで働くという意識は低いように感じます。

お金のために働いていたらいずれ行き詰まる

 一方、東大・京大の学生の就職人気ランキングによると、1~7位まではアクセンチュアやマッキンゼー&カンパニーといったコンサルタント会社ばかり(転職活動サイト ワンキャリアより)。これについて、大手のコンサルタント会社のなかには、東大と京大の学生しか採らないところもあると聞きます。そうなると他の大学の学生は最初から諦めてエントリーしないのかもしません。

 そう考えると、一般的な就活人気ランキングは、若者の本当の希望を表わしているものだとは言えない気がします。とくに、今は「日本では最初に大企業に入っておくと転職しやすい」という話が学生の間でも周知されているので、転職する前提で選んでいる可能性も高いでしょう。

 つまり、企業としては、新卒で入って来た若手社員は、いずれいなくなるという前提で考えておいたほうがいいということになります。働き方改革に合わせて、リモートワークをしやすい環境を整えたり、残業をなくし、産休・育休制度を整えたとしても、それはもはや当たり前の条件。それだけでは長く留まってくれないでしょう。

 コンサルタント会社を選ぶ若者にしても一生勤め上げるわけではなく、そこの会社で働いたという経歴があれば転職や起業をしやすくなるのを見据えてのことかもしれません。

 それでは、若者が興味を持つ企業にはどのような共通点があるのでしょうか。

 転職したい理由の1つである「社会や人のために仕事ができそう」という社会貢献の意識は、今の若者はかなり高いと以前から言われています。

 メディアでよく紹介されているオリィ研究所の吉藤健太朗さんは、20代で起業した起業家です。ASL(筋萎縮性側索硬化症)や脊椎損傷といった難病患者や重度障害者のために遠隔操作する分身ロボットを開発し、ロボットを通して働ける環境をつくりだしています。自身がひきこもりだったことから「孤独の解消」をテーマに開発をしているのだそうです。

 こういった企業が若者から注目されていることを考えると、キーワードの一つは「人の役に立てる」「社会貢献」ではないかと思います。

 コンサル会社にしても、企業や経営者の役に立ちたいという意識があり、それにプラスして高収入だから選ぶのかもしれません。

 一方で東大・京大の学生の官僚離れが進んでいると言われていますが、これだけ世間から批判され、労働条件の悪さを指摘されると、二の足を踏むのも無理はないと思います。

クルミドコーヒーに学ぶ人の育て方

 クルミドコーヒーは新宿から約30分の西国分寺という目立たない駅にあるにも関わらず、全国から人が集まる小さな喫茶店です。

 店のテーブルには殻つきのクルミが置いてあり、くるみ割り器で客が自分で割って食べられるようになっています。時間をかけて水出しで抽出したアイスコーヒーや、毎日粉をこねて仕込んでいるパンやケーキなど、手間暇をかけたメニューばかりで、チェーン店では決して味わえないおいしさを提供しています。

 しかし、それだけでは今時珍しくありません。私は、成功の秘訣は店の空気にあると思いました。もちろん、エアーではなく雰囲気です。ドアを開けて一歩入ると、流れている空気や時間が違うのです。店は「木と鉄と石とガラス」しか置かないというポリシーでつくり、テーブルも大きな無垢材で仕立ててあります。店内のあちこちにくるみ割り人形が置いてあり、大人でも童心に戻れるような空間です。こういった雰囲気はチェーン店にはないでしょう。

 影山さんがクルミドコーヒーで実践しているのが、「植物を育てるようにお店をつくる」こと。オープンしてしばらくは事業計画書を作り、月ごとに目標を決め、「今月は客単価を30円上げましょう」「今月は物販で売り上げ●●円を目指しましょう」と社員全員で共有していました。翌月の定例会で達成できたかどうかを振り返り、達成されれば功労者を称賛し、達成していなかったら原因を分析して改善していたのです。まさに、コンサルタントの合理的経営法です。

 しかし、目標を立てると、それを達成することに意識が行ってしまい、目の前のお客様との交流を楽しめなくなります。例えば客単価アップを意識するようになると、売込み姿勢が強まり、珈琲しか注文しない客に対して内心で「チェッ」と思ったりするわけです。そういう気持ちが客に伝わると、満足度は低下します。

 そのうえ、「~しなければならない」という義務感が強くなり、現在が明日や未来のための通過点になってしまうと影山さんは思い至ったのです。

 そこで開店して2年半経った頃に事業計画書に沿って仕事をするのをやめました。目の前のお客様、一杯一杯のコーヒーに集中し、今を大切にすることにしたのです。

最初にあるのは人か仕事か

 影山さんは講演で「仕事に人をつけるのではなく、人に仕事をつける」と話していました。これを聞いた時、私がヘッドハンティングの仕事を通じて長年考えてきたことと重なり、とても共感しました。

 モノをつくったり商品を販売したりするとき、利益を追求するためにまずゴールや目標を定めて、事業計画書や設計図をつくります。すると、それに貢献できる人はいい人材となり、そうでない人は「使えない人間」ということになります。利用価値のある人は存在する意味があるけれども、利用価値のない人には存在する意味がない。つまり「人」が利益を上げるための手段になってしまうのです。

 そういう成果を最上の目標にする経営ではなく、一人一人の命が最大限発揮され、それぞれにしか咲かすことのできない花を咲かせる経営を影山さんは実践してきたと言います。そのためには、スタッフ一人一人がやりたいと思っていることをやってもらう。そうして出版業や喫茶店内でのコンサートが生まれ、店長はデザイナー業を始めたそうです。

 これは「仕事に人をつける」のではなく、「人に仕事をつける」方法です。人に仕事をつけると、その人自身がやりたいと思っていたことなので、モチベーションは上がります。 

 当然、その人にしかできない仕事をつくると替えが利かなくなり、当人がいなくなったらその仕事はできなくなります。しかし、それでもいいと影山さんは考えているのです。

 人に仕事をつける方法でやっていけるのかと疑問に思うかもしれませんが、クルミドコーヒーは年率14%で売り上げを伸ばし、現在は国分寺にも出店し、スタッフは社員とアルバイトを含めて30名ぐらいになったと言います。スタッフはほとんど若者なので、若者にとって魅力のある企業なのでしょう。働いているスタッフは、サービスはぎこちなくても目が死んでいる人はいません。

資本主義と社会主義の次の未来をつくる

 クルミドコーヒーで使われているクルミは一つ一つ殻を割り、渋皮を剥いて色々なメニューに使っています。クルミは長野の東御市の農家が竹ざおで実を落とし、一つ一つ外果皮をむいて殻つきのクルミを取り出していて、1キロあたり約3000円します。一方、アメリカのカリフォルニア州では機械で実を落とし、皮をむくのも乾燥させるのもすべて機械です。これは1キロ約1000円。

 ここで、あえて3000円のクルミを選択することで、得られるものは多いのではないかと影山さんは考えています。クルミドコーヒーを通して、お金でははかれない大切なものを見つめ直そうとしているのです。

 よいサービスや料理を適正価格より安く受けられたら、お客さんは自然と「こんなにおいしいものをいただけるなんて、ありがたいな」という気持ちになるでしょう。そういう気持ちを影山さんは「健全な負債感」と呼んでいます。

 人は何かしらのギフトを受けたら、お返しをしないといけない気持ちになる「返報性の原理」が働くと言われていますが、おいしいものをリーズナブルに食べたお客さんも「何かお返しをしたい」という気持ちになるのです。だから、近所に一杯200円ぐらいでコーヒーを飲めるチェーン店があっても、その23倍の値段はするクルミドコーヒーに足を運び、お金以外の価値を交換しようという気になるのです。

 影山さんはこれを、「利用し合う(Take)関係」ではなく、「支援しあう(Give)関係」と表現しています。確かに、チェーン店の安いコーヒーを飲んでも、「ありがたい」という気持ちも、支援しようという気持ちも沸いてきません。店は利益のために客を利用し、客は時間やお金がないときに利用するという関係性です。

 Giveの関係を個人レベルではなく、地域で育んでいけないかと影山さんが始めたのが、「ぶんじ」という地域通貨です。

 たとえば、国分寺の農家で農作業を手伝ったら、農家は労働に対する感謝の気持ちを表すために「ぶんじ」を渡します。「ぶんじ」を受け取った人は、クルミドコーヒーでおいしいコーヒーに満足したら、その料金の一部を「ぶんじ」で支払います。そして、クルミドコーヒーは農家から材料を仕入れるときに(一部)「ぶんじ」を使う。そうやって、その地域でグルグル回る通貨が「ぶんじ」です。

 本来、働くという行為は、お金を得るための行為ではなく、自分や相手を喜ばせるためにあるのではないか。give & givenで成り立つ街や社会を目指し、「ぶんじ」で幸せな社会のシステムをつくろうとしているのです。つまり、「ぶんじ」は好意に基づく支援でできている通貨だと言えるでしょう。

 地域通貨は今までも色々な地域で発行されてきました。しかし、継続しているところは少ないでしょう。その理由の一つは、客は店で地域通貨を使えても、店側が地域通貨を使える場所がないからです。そこで、「ぶんじ」は地域の商業と農業をつないで循環するシステムをつくりました。

 お金を目的にしてきた資本主義は、今や世界的に行き詰って来ています。日本でも大企業が過去最高益を次々と発表しても、景気がよくなったと実感する層はわずかです。1%の富裕層と99%の貧困層と言われているように、経済格差は開くばかり。

 社会主義も共産主義も成功している国は少なく、世界的に何を目指せばいいのか分からなくなっている状態です。

 これからどんな社会システムがうまくいくのかは分かりません。しかし、お金を追い求めるのではなく、人に与えよう、何かを贈ろうというgiveの気持ちがあったら、明るい未来が開けるのではないでしょうか。

そして、若者や子供達がその未来を担っていくことになるでしょう。これから、若者達が今までにない働き方を築き上げていくのだと私は期待しています。そのためには中高年は自分のことさえよければいいという考えを捨てて、若者や子供達を大切にする社会をつくっていかなくてはならないのです。

 ~後編は1125日公開予定~

20191118

武元康明

先日新R25 にて拙著より「転職の成功/失敗は「OS」のマッチ具合で決まる。一流ヘッドハンターが語る転職の極意 | 新R25」を紹介いただきました。こちらも読んでいただければ幸いです。

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