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半蔵の心得

第27回 中村哲医師に学ぶ、本当のSDGsとは(後編)

 前編では昨年末にアフガニスタンで亡くなられた中村哲医師の活動の内容を、SDGsに当てはめながらご紹介しました。後編では、私達はどのようにSDGsを実現させればいいのか、その可能性を考察したいと思います。

世界のSDGs企業の活動

 2013年にバングラデシュで縫製工場が入っていたビルが崩壊し、1100人以上の命が奪われ、2500人以上の負傷者が出る大惨事が起きました。この工場に依頼していたのは欧米の有名なファッションブランドだったことから、貧しい国の人に低賃金で重労働を課しているファッション業界が抱える問題が明るみに出ました。

 そのような流れを受けて、サンフランシスコを拠点とする、EVERLANE(エバーレーン)というオンラインストアでファッションアイテムを販売する企業が注目を集めています。この企業は「Radical Transparency(圧倒的な透明性)」を掲げていて、それぞれの洋服の生地代や縫製費、関税、輸送費、人件費などの金額をすべて公開しています。

 さらに、アメリカのサイトでは各工場の情報を写真と共に公開しています。そこでは、作業の合間に仲間と楽しそうに遊んでいる従業員の写真を見られますし、清潔な環境で働いていることも分かります。ベトナムの工場では従業員全員にモペット(原付バイクのようなエンジン付き自転車)用のヘルメットを無料で提供し、安全に通勤できるようにしたと言います。

 通常、フェアトレード的な活動をしている企業の製品は割高ですが、EVERLANEは店舗の数を抑えて、中間業者や大規模な宣伝広告を排除してコストを下げているので、Tシャツ1枚の値段が2000円台からと適正価格です。シンプルなファッションと、オシャレに社会貢献できるスタイルがアメリカの若者にウケて、新作の発売日には店の前に行列ができるそうです。日本版のサイトもあり、日本でも注目されているSDGs企業の一つです。

 日本では企業で環境問題に取り組むとなると、街頭の清掃活動をしたり、海外で植林をするなどの活動が主になります。しかし、海外ではEVERLANEのようにメインテーマとして掲げて、企業全体の活動として行うところが増えているのです。

 これからは日本企業も片手間としてSDGsに取り組むのではなく、企業の軸に据えるぐらいでないと世界では評価されなくなるのかもしれません。

日本におけるSDGsの取り組み

 日本では、ここ2、3年でSDGsブームとも言えるような現象が起きています。各地でSDGsに関するイベントが開かれ、女性向けのファッション誌や子育て雑誌でもSDGsを特集で組むなど、認知度が高まってきました。

 カナダのコーポレートナイツ社が発表した、世界で最も持続可能な企業100社をまとめた「2019 Global 100」によると、日本の企業は8社がランクインしました。その8社はエーザイ(73位)、武田薬品工業(78位)、横河電機(82位)、積水化学工業(89位)、花王(92位)、トヨタ自動車(95位)、コニカミノルタ(96位)、パナソニック(100位)です。

 このうち、武田薬品はランクインした日本企業で唯一、SDGs17の目標すべてに取り組んでいます。現在の社長兼CEOはフランス人であり、薬学・薬物動態学博士でもあるクリストフ・ウェバー氏なので、社会問題に関する意識が高いのかもしれません。

 武田薬品の取り組みの1つとして、ユニセフと一緒に「人生最初の1000日」保健・栄養プログラムを行っています。これは新生児や5歳未満の子供達の生存が厳しいベナン、マダガスカル、ルワンダなどで、妊産婦や新生児・乳幼児を対象に保健サービスや食事の改善指導や栄養物資の調達、治療などを行う取り組みです。

 珍しいところでは、「16. 平和と公正をすべての人に」については、贈収賄禁止グローバルポリシーを制定し、取引先が政府でも公務員でも私的事業者でも、武田薬品の利益を得るために違法な賄賂も利益提供もしないと誓っています。また、研究開発に伴う資金提供先の名称、研究を担当する医師の名前や金額なども公開し、情報の透明性を図っているのも印象的です。

 まだまだSDGsは資金力のある大企業を中心に盛り上がっているのが現状ですが、中小企業やベンチャー企業で取り組むところも増えています。たとえば、今までは廃棄されるだけだったアフリカ産のバナナの茎から取ったバナナ繊維を原料として「バナナペーパー」をつくっている「山櫻」という企業は、現地での雇用や教育支援も行っています。

 世界規模の活動ではなくても、障害者を積極的に雇用したり、女性が働きやすい職場をつくるだけでもSDGsになります。働き方改革も、まさにその一つになるでしょう。

 日本は元々、京都議定書が採択されてからCO2の削減目標を実現させるために、せっせと省エネに取り組んできました。アメリカや中国は世界で12位を争う環境汚染をしているので、日本は人口が多くても環境に対する意識やスキルはかなり高いほうではないでしょうか。SDGsは日本の企業にとって、有利なビジネスになるように感じます。

「持続可能な活動」のつくり方

 私は、SDGsの最大の課題は、一過性に終わるのではなく、持続可能にさせることではないかと考えています。日本も欧米諸国も、貧困をなくそう、環境を守ろうと、世界のさまざまな国に出向いて活動をしてきました。しかし、その多くがあっという間に撤退しているのではないでしょうか。

 前編でご紹介した中村医師は、「字の書けない難民の子供に鉛筆が配られる。やがて家畜小屋になる白亜の校舎が惜しみなく建設される。土建屋と政治家は喜ぶだろうが、どうも教育援助の結末は、胡散臭いのだ」と、欧米流の国際貢献に疑問を投げかけています。

 日本からの寄付で後進国に立派な学校を建てても、維持できずに数年で廃校になっているケースも多いと言います。やはり、現地に何度も足を運び、信頼関係を築きながら、本当に必要なことを見極めないとうまくいかないのでしょう。

 中村医師は用水路をつくるとき、自分がいなくなっても住民だけで維持できるような方法を考えました。

 日本の企業なら、パワーショベルを何台も使って水路を切り開き、コンクリートで護岸工事をして用水路をつくっていたかもしれません。確かに、その方法だと短時間で丈夫な用水路ができるので効率的です。

 しかし、コンクリートが劣化したらどうすればいいのでしょうか。つくるだけつくって企業が撤退してしまったら、住民は後のメンテナンスをどうすればいいのかが分かりません。長い目で見たら、住民たちが自分の手でできるような方法を考えないと、住民のためにはならないのです。

 中村医師は日本の江戸時代の灌漑技術を参考にして、鉄線でバスケットをつくり、岩をそこに詰める「蛇籠(じゃかご)」を積み重ねて堤防をつくりました。また、川岸には柳の木を植えたことで、成長すると根がカゴを覆い、堤防を守れるようにしたのです。この方法なら、現地にあるものでつくれるので、堤防が壊れても住民だけで直せます。

 もちろん、中村医師のように現地に行って何十年も活動をするのは並大抵のことではできません。しかし、社会貢献とは、遠い貧しい国でボランティアを行うことばかりではないはずです。

 今や、日本の国民の6人に1人が貧困ライン以下の生活を強いられ、日本の貧困は先進国の中でワースト2位になっています。

 そんななかで、2018年に日本にグラミン銀行が設立されました。グラミン銀行はバングラデシュで貧しい人たちに低利・無担保で少額の融資を行う活動で、創設者のムハマド・ユヌス氏はノーベル平和賞を受賞しています。そのグラミン銀行が日本に進出したということは、それほど日本の貧困も深刻になっているのだと考えられるでしょう。シングルマザーや生活困窮者の自立を支援するために設立されたと言います。

 今は非正規雇用の人数は労働人口の4割を占め、経団連が「定年まで雇用するのは難しい」と言っていることからも、いつ自分が正社員の座から滑り落ちるのか分かりません。つまり、明日は我が身かもしれないのです。

 大々的な人助けはできなくても、目の前にいる困った人に手を差し伸べることはできるのではないでしょうか。今、社会のためにしたことが、未来の自分を守ります。

 そもそも、「SDGsのために」という理由ではなくても、日本人は困っている人を放っておけない気質なのではないかと思います。中村医師も、さかんに「日本の良心を体現する」「日本の良心で活動を続ける」と、「日本の良心」という言葉を使われていました。日本の良心を発揮できれば、欧米諸国ではできないような持続可能な国際貢献をできるのだと、中村医師は考えられたのかもしれません。

日本が勝負できるのは教育

国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)によると、2019年の世界のSDGs達成度ランキングで日本は162カ国中15位。日本より上位にランクインしているのはほぼ欧州の国です。アメリカは35位、お隣の韓国は18位、中国は39位であることから考えると、日本は世界で10番目に人口が多い国であるにもかかわらず、健闘していると言えるかもしれません。

日本が達成できていると評価されているのは、「4. 質の高い教育をみんなに」と「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」の2つ。これは誇れることですが、昨今問題視されている分野でもあります。

OECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)が3年ごとに行っている学力調査によると、2018年は日本の数学的リテラシーは6位、科学的リテラシーは5位。読解力は15位と低めですが、参加国79か国の中では悪くない数字です。学力低下が叫ばれていても、現段階ではある程度は評価できるのではないかと思います。

産業と技術については、技術大国の面目躍如というところでしょうか。

中村医師は最初にパキスタンへ赴任する前に、イギリスの熱帯医学校に留学して熱帯病に関する医療を学んだそうです。その時の教授の一人がビルマ(現ミャンマー)で日本軍と闘った経験のある医師でした。彼から、「なぜ日本人がわざわざイギリスにまで学びに来たのだ」と問われて、中村医師は「日本には熱帯病の臨床を学べる施設は皆無だ」と答えました。すると教授は訝しがって、「それはおかしい。あのとき、日本兵は我々以上に熱帯病に苦しめられたはずだ」と言ったそうです。

そして、その教授は図版入りの寄生虫病学書を中村医師に見せました。それは何と、戦前の日本の本を英訳したものだったのです。日本は1930年代には住血吸虫症の根絶モデルを確立するなど、実は優れた医療の技術や知識を持っていました。それを「自国で問題が去れば、重視しない」ために、継承してこなかったのです。

中村医師はアフガニスタンの堤防の技術にしても、「古いものをなくさず持っていればいつか必ず役立つときがくる。日本人はこの何百年も前の技術を大切にしたほうがいい」と考えていました。日本には、忘れ去られた優れた技術や知識がまだまだあるのではないでしょうか。それを発掘して世界に広めるだけで、実は多大な社会貢献になる可能性もあるのです。

一方で、日本がSDGsで最大の課題とされているのは5のジェンダー平等、12のつくる責任、つかう責任、13の気候変動、17のパートナーシップでした。女性国会議員の数の少なさ、男女の賃金格差、再生可能エネルギーが占める割合、エネルギー関連のCO2排出量、水産資源の乱用、絶滅の恐れのある種のレッドリストなどが問題視されたようです。

結局のところ、SDGsで問われるのは企業のOSなのでしょう。

私はこのコラムでずっと、企業も人もOSが大事なのだと話してきました。OSとは、社会や個人の良心に従ったものでなくてはなりません。社員を疲弊するまで働かせている企業には良心はなく、そういう企業がSDGsをしたところで、何の値打ちもないでしょう。

SDGsという目標を掲げなくても、良心に基づいて行動すれば自然と社会貢献になります。そして、良心は、何が善なのか、それをどのように実践すればいいのかを日々考え抜いて、磨き続けなければ維持できません。磨いてないとすぐに曇ってしまい、一度曇ったらなかなか元には戻せないものです。価値観が変わりやすい激動の時代で、良心を守り続けること自体が、もしかしたら最大の社会貢献になるのかもしれないと思います。

良心に従い、中村医師が常に語っていた「やり抜く決意と工夫が一番大事」を実践することが、私達にできるSDGsではないでしょうか。

2020310

武元康明

半蔵紀行「絶滅危惧種を食す~うなぎと私~」におきまして、私の趣味「うなぎ」からSDGsについて触れております。

 

参考資料:

・中村哲著『辺境で診る 辺境から見る』石風社

NHKドキュメンタリー「武器ではなく 命の水を~医師・中村哲とアフガニスタン~」

・ペシャワール会HP http://www.peshawar-pms.com/index.html

・中村哲氏関連の記事

https://specials.nishinippon.co.jp/tetsu_nakamura/

https://www.medi-gate.jp/selection/column193/

SDGs関連サイト

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

https://miraimedia.asahi.com/sdgs-description/

ESG投資

https://sustainablejapan.jp/2019/04/02/gsir-gsia-2018/38613

SDGs達成度ランキング

https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1193050_1501.html

・「2019 Global 100」にランクインした日本

https://esibla.or.jp/info/global-100-japanese-company/

・グラミン日本

https://grameen.jp/

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