半蔵門パートナーズ 半蔵門パートナーズ

お問い合わせ
手紙・名刺をお持ちの方
お問い合わせ 03-3221-3345

半蔵の心得

第9回 仕事は苦役か、美徳か、楽しみか

 仕事とは何か。今回はこの壮大なテーマに挑戦してみたいと思います。

 最近、ドイツ人の仕事の生産性が高いと話題になっています。ドイツと日本のGDP(国内総生産)は同じぐらいです。しかし、一人当たり年間総実労働時間は日本人は1719時間であるのに対し、ドイツ人は1371時間。日本人は1年で43日間もドイツ人より多く働いている計算になります。

 ドイツでは残業はほとんどなく、完全に週休二日。それに加えてバカンスも1か月ぐらい取れます。よく、「ドイツ人は休むために働き、日本人は働くために休む」と言われています。ドイツでは、休暇は神聖なものとの考え方が主流にあり、長時間働くことが「勤勉なこと」ではないのです。
 一方、日本では勤労は美徳という考え方が根強くあります。有給休暇も消化できず、一人で長期休暇をとると心のどこかに罪悪感や不安感があります。休むことは怠け者がすることだと思っているのでしょう。
 ドイツ人の真似をする必要はありませんが、一度立ち止まって働くことの意味を考えてみませんか。

働くとは「人のために動くこと」

 仕事とは何か、何のために働くのか。

 生活のため、自己実現、お金、名声を得るため、プライベートを充実させるため、社会貢献のため、人の役に立つためなど、仕事の意味はその人の価値観によって決まってきます。

 実は、「働く」という漢字は国字で、日本人が考えたと言われています。多くの漢字は中国からもたらされましたが、中国では働くに該当するのは「工作」「労動」という漢字で、労動の「動」の字は「働」ではなく「動」なのです。

 それが、なぜ「働く」になったのか。

 これについて、日本理化学工業の大山泰弘会長は、「人間の幸せはまわりの人間の役に立つこと、人のために動くこと」と説くために、「働く」という字にしたのではないかと語っていらっしゃいます。

 日本理化学工業はチョークを製造している会社ですが、社員の70%以上は知的障害者だそうです。大山会長ご自身は、最初は障害者に働いてもらうことには懐疑的でした。ある日、法事でお寺の住職と話した時に、「うちの工場では知的障害者が一生懸命仕事に取り組んでいるけれど、施設に入って面倒を見てもらえば、今よりずっと楽に暮らせるのではないか。なぜ毎日満員電車に乗って、遅刻もしないで、彼女たちは工場へ働きに来るのか」と何となく尋ねたそうです。

 すると住職は険しい表情になり、こう答えました。

「人間は人に大事にされることが幸せだと思っているんですか? とんでもない。人間の究極の幸せは4つあります。1つ目は、人に愛されること。2つ目は、人に褒められること。3つ目は、人の役に立つこと。4つ目は、人に必要とされること。『たくさんチョークを作ってくれてありがとう』という言葉は、企業で働いているからこそ得られるんですよ」

 それ以来、大山会長は知的障害者を積極的に雇用するようになったのです。

 経営の神様、松下幸之助もこんな言葉を残しています。

「人間、ただ働くだけなら誰にもできる。だが、その仕事に意義を見出し、この仕事を通して自分は社会に貢献しているのだと感じれば、黙っていてもその働きは変わってくる」

 どんな仕事にも自利と利他の側面があります。その2つをバランスよく同時に実現できることが、本当の意味での「働く」ではないかと私は思います。

どんな仕事をしていても、自分は自分

 仕事に対するとらえ方や心構えは人それぞれだと思いますが、大きく分けて「やらされている人」と「(自ら)やっている人」に分かれると、私は考えています。

 私は723日(予定)に『30代からの「異業種」転職 成功の極意』(河出書房新社)を上梓します。

 バブル崩壊後に終身雇用制が崩れてから、転職するのは当たり前になりました。ここにきて、35歳転職限界説もようやく崩壊しつつあります。

 これからは、何歳になっても転職を考えないといけなくなるでしょう。

 人生100年時代になると、60年間働くことになります。定年を延長しようという議論も起きていますし、何より60歳で退職したとしても、残り40年間をどう生きればいいのでしょうか。「定年後は趣味を楽しもう」と思っていても、本当に楽しめるのはせいぜい1年ぐらいだと思います。やはり、何らかの形で働くことでしか、喜びも楽しみも感じないのではないでしょうか。

 とはいえ、おそらく多くの企業は同じ分野の仕事をしてきた人材を中心に選ぶでしょう。

 しかし、私は異業種の転職がこれからは盛んになるだろうと考えています。なぜなら、IT化、デジタル化が進んだら業種の垣根はどんどん低くなっていくからです。

 アメリカではグーグルやアップルが自動車業界に参入しましたし、日本でもソニーや長谷工が介護事業に参入するなど、異業種への参入が増えてきました。医師や特殊な技術系など特別なスキルを必要とする分野はともかくとして、今後はあらゆる業界で求められるスキルの幅が広がるだろうと思います。

 ただし、異業種への転職を成功させるには、キャリアの一貫性というより、「人間としての一貫性」が求められています。

 どこでどんな仕事をしていても、「自分は自分」なのです。社長であっても平社員であっても、農家や漁師から主婦までさまざまな職種において、「何をしているか」ではなく、「どういう人か」「どう生きているのか」が大事なのです。

「やらされている人」ではなく自主的に「やっている人」であれば、どんな業種であっても活躍できるのは間違いありません。やらされていると思った瞬間から、どんな仕事も輝きを失ってつまらなくなり、本当の苦役になってしまいます。

AIなんて怖くない

 私自身は、仕事は自分の弱みや強みを見つけ、弱点を克服して強みを伸ばすことで自己の器を拡げられる場だとも考えています。

 昨今、AI(人工知能)の進化によって、シンギュラリティが起きると騒がれています。シンギュラリティとはAIが人類の知能を超える転換点のことですが、それに対して楽観論もあれば悲観論もあります。

 シンギュラリティを新しいチャンスとしてとらえているのが、ソフトバンクの孫正義社長やベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)の著者・新井紀子さん。警鐘を鳴らしているのが故スティーヴン・ホーキング博士やマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏です。

 どちらにせよ、いずれ産業革命にも匹敵する変化が起きると考えられるでしょう。多くの職業がなくなるかもしれませんが、同時に新しい職業も登場すると思います。

 マーティン・フォードの『ロボットの脅威』(日経ビジネス人文庫)によると、産業革命が起きると農民や職人は失業し、工場で働くようになりました。さらにオートメーション化が進むと工場で働く人は失業し、サービス業へと向かいました。

 同じようにAIが進化するにつれ多くの人は失業して、他業種へ転職するのを余儀なくされるでしょう。ただ、かつてはルーティンワークが淘汰されていましたが、AIの台頭によって医者や弁護士、ホワイトカラーといった知識労働の人まで対象になると言われています。そうなると、高給をもらっていた職業の人が仕事を失うことになるのです。自分の仕事は大丈夫だろうかと、不安を覚えている人も少なくないと思います。

 お金のために働き、仕事とは成功やステイタスだと考えている人は、地位が低くなることに耐えられなくなるかもしれません。まず職業があり、それに自分をはめ込んでいると職業がなくなると自分までなくなってしまいます。ここで発想を転換し、まず自分があり、その自分を向上させて他の人の役に立つために働くのだと考えると、どんな仕事でもやりがいを持って楽しくできるでしょう。

 さらにフォード氏はAIが発展すると一時的には混乱をきたしても、将来的にはベーシックインカムに落ち着くだろうと推測しています。ベーシックインカムとはすべての国民に対して最低限の収入を支給する制度のこと。現在、フィンランドではその実験が行われています。

 ベーシックインカムが導入されれば、自分の向上や利他の精神はさらに大切になるだろうと思います。もう生活のために嫌な仕事をやらなくても済みます。自分のライフワークや、やりたいことを追求できるようになるでしょう。そして、そういう人こそ転職で成功するのです。

 もしAI革命が起きた時こそ、職業のマッチングがさらに必要になるでしょう。

 皆さんが働く喜びを感じられるよう手助けをするのが、私達ヘッドハンターの使命なのだと思います。一人一人が幸せになれる場を見つけられれば、日本はきっと元気になるはずだと、私は信じて日々日本中を飛び回っています。

 

2018年7月12日

武元康明

手紙・名刺をお持ちの方