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半蔵の心得

第11回 ヘッドハンターから見た いい職場、悪い職場

 私は仕事柄、今まで数えきれないほどの企業や病院を訪れ、職場を見てまいりました。皆それぞれに特徴があり、雰囲気も違い1つとして同じ職場はありません。

 私達は仕事を受けるにあたり、依頼を受けた企業や病院を見極めなくてはなりません。今回は、どのようにいい職場、悪い職場を見分けているのかについてお話します。職場の良し悪しを見るだけで、会社の業績や将来性はある程度予測ができます。

武元流リサーチ術

 企業や病院から人材を探してほしいという依頼をいただいたら、私たちはまずその企業や病院のリサーチをしてから引き受けるかどうかを決めています。

 リサーチする手段は、帝国データバンクのような調査会社や外部の協力者、組織のホームページなどから情報を集めます。

 私が調べているのは、以下のような情報です。

 

職場の基本情報=AP(アプリケーションソフト)

・組織の業績

・業種、事業(ビジネスモデル)

・専門性、技術

・経営規模

・主要取引先

・資本構成 

・諸制度(給与、評価など)

・環境(地理、建物、執務スペース)

 ・知名度、ブランド力

 

職場の風土、ポリシー、モラル=OS(オペレーションシステム)

・経営者の経歴や人柄

・創業精神や経営理念

・幹部、従業員の傾向

・社員の定着率

・創業してからの歴史

・大株主の支配力

・業界の文化や慣習 

・経営ステージ (創業拡大期、安定期、衰退・変革期)

・自社固有のやり方や仕組

・諸制度の背景にある哲学

 

 データを2つに分けて考えて、OS>AP、要するに会社の風土、ポリシー、モラルを重視するのが武元流です。これらの情報からその職場がブラックなのかホワイトなのかを予想することもでき、職場の良し悪しを判断する参考にできます。

 ただし、最近は会社の内部で働いている人たちがいい面や悪い面を投稿するサイトがあります。どちらの意見も参考にするとしても、100%信じるのは危険です。

 これはグルメサイトでレストランを検索するのと同じです。やらせや中傷かもしれないので、口コミサイトの点数や星の数を鵜呑みにしてはいけません。情報提供者や会社の関係者からの生の情報のほうが、信頼できることは言うまでもありません。

こんな職場で働きたい

 事前のリサーチで信頼できそうだと判断したら、その企業や病院の経営者や総務、人事の担当者とお会いして詳細を伺います。

 このやりとりは、先方の職場に足を運んで話を伺うのが基本です。私は初回商談の際に、少なくとも30分前に現地に到着し、従業員らしき方々の動作・行動・顔の表情などを見ています。複数企業が入居するオフィスビルであれば従業員を特定するのは難しいですが、特定できることもあります。

 たとえば、地方で本社を構える医療機器を製造販売しているA社。社員数は1500人を超え、年商は500億円を誇る企業です。新規事業を始めるにあたり、その部署を統率できる人材を探していました。

 地元では知らない人はいない有名企業で、タクシーの運転手さんに評判を聞いても、「あの会社はいい会社だって話を聞くよ。バブルが崩壊した後も社員をリストラしなかったし、ここら辺では給料がいいしね」とのことでした。社員の定着率は高く、定年まで勤め上げる人が多い企業でした。

 広大な本社の敷地内はよく手入れされていて、社屋は古いけれども清潔感に溢れていました。正面玄関では受付嬢が出迎えてくださり、「とても気持ちのいい会社だな」というのが第一印象です。

 廊下ですれ違う社員の方々は、みな笑顔で「こんにちは」と挨拶をされます。いい職場では従業員の表情は明るく、従業員同士ですれ違う時も笑顔で挨拶しています。ロビーで困っているそぶりの来訪者を見かけたら、「何かお困りですか?」とすかさず声をかけるのも、いい職場でよく見られる光景です。

 最近は、受付は派遣のケースが多いのですが、いい職場、悪い職場の雰囲気は必ずといっていいほど外部のスタッフにも伝染するので、判断材料には欠かせません。

 そして、経営者の人柄が大事な判断材料であるのは、言うまでもないでしょう。

A社の場合、創業者である社長は表情に深みがあり、やさしさと厳しさの両方を備え、やわらかい微笑みが印象的でした。経営の神様、松下幸之助さんを彷彿させるような方です。

 当時はリーマンショックが起きる前で業績も安定していたのですが、「これから何が起きるか分からない。早めに新規事業に参入しておかないと、業界全体が傾いてから動くのでは遅すぎる」と大局観を持っていらっしゃいました。

 人事部の部長も同じように快活だけれども人当たりがよく、幹部にこういうタイプがそろっていたら、社員も伸び伸びと働けるだろうなと感じました。

A社は候補者となる方にもいい職場だと太鼓判を押せるので、この案件は引き受けました。

 ただ、地方の大企業は変化を恐れる傾向があります。A社でも、新規事業を立ち上げて社外から多くの人を採用することに難色を示す人たちが少なからずいて、話が現実味を帯びてくると、会議が紛糾することもあったようです。

 しかし、最終的には社長が改革をやり遂げると決め、新規事業はスタートしました。その決断のお蔭で、今でもA社の業績は安定しています。

こんな職場は要注意

 一方で、私から見て「これは勤めている社員さんが気の毒だな」と思うような企業もあります。

 ある地方の薬局チェーン店のB社は創業以来、業績はずっと好調で、次々に出店して勢いがありました。当時は私も薬局関係のネットワークがそれほどなく、情報があまり集まらなかったのですが、創業者Yさんの経歴や経営理念は素晴らしかったので、会ってみようと思いました。

 本社を訪れた時、受付嬢にまったく笑顔がなく、どこかおびえているような感じだったので、「入ったばかりの人なのかな」と思いました。その理由はすぐに分かりました。

 受付嬢に案内されて事務所に入ると、突然社員が全員立ち上がり、「こんにちは、いらっしゃいませ!」とお辞儀をしたのです。しかも、みんな笑顔がありません。私が挨拶を返すと、一斉に座って黙々と作業を始めたので、異様な雰囲気を感じました。

 Yさんは私が社長室に入ってもずっと電話で誰かを怒鳴りつけていました。いかにもワンマンタイプの経営者で、社内がピリピリしているのはYさんが原因であることは明らかでした。

 私が「皆さん、礼儀正しいですね」というと、「せやろ? あそこまでできるようになるには、時間がかかったんや。うちの社員はようできんやつが多くてな」といきなり社員を卑下するような発言です。お茶を運んできた女性社員もあきらかに緊張していますし、ブラック企業臭がプンプンしました。

 今の私なら絶対に引き受けませんが、当時はまだ若かったこともあり、一抹の不安を感じながらもその案件を引き受けました。しかし、後から分かったのですが、Yさんのパワハラが原因で、次々に従業員は辞めていたのです。

 私が条件に合った候補者を見つけても、Yさんは言うことをコロコロ変え、「いや、ベテランの人がうちの会社に来て、今までのやり方をされても困るんや」と一蹴します。何とか気に入る人材を見つけて、お互いに合意して入社が決まりました。

 ところが、ホッとしたのもつかの間、一年も経たないうちに候補者の方から「あの会社ではやっていけない。最初に言われていたのとは、まったく違う仕事をやらされる!」とクレームが入ったのです。結局、その方には別の転職先を紹介しました。

 この会社での経験を通して、数字だけで優良企業だと判断するのは危険なのだと、つくづく実感しました。

時折、同業他社や自社の経営者・従業員の悪口を言う総務や人事の担当者がいます。自社の問題点を認識しているのならいいのですが、「うちの社員は指示されないと動かないんです。最近の若者は……」と延々と愚痴をこぼす方もいらっしゃいます。こういう会社は幹部の当事者意識が低く、従業員のせいにして逃げている傾向があるので、働きづらいのではないかと思います。

 窓口となる担当者が自社に引き込もうとして他社の悪口を言うケースは結構多いですし、自社のいいことだけしか話さない担当者もあまり信用できません。なぜ採用するのか、その課題・背景の説明があった上で、「それを解決するために、どのような人材が必要なのか」という全体像を大局観で説明できる方は信用できます。

 なかには、「お金はいくらでも出すから、いい人を連れて来てよ」と要求する経営者もいますが、そういう案件はお断りしています。

マッチングが命

 今までのコラムでお話してきたように、私は企業と候補者の相性、OSのマッチングを図るのが大事だと考えています。典型的なブラック企業であるB社であっても、長く勤めている従業員はいます。それはOSがマッチしているのでしょう。

 以前、とある企業から「ロボットのようになって働いてくれる人材が欲しい」という依頼を受けました。自分の頭で考えて率先して働く人材ではなく、指示待ち社員が欲しいということです。世の中の流れからは逆行しているように感じるかもしれませんが、その企業はトップダウンの経営スタイルでうまくいっていました。世の中には指示待ちでも優秀な人材も多いので、そういう人材にとっては「いい職場」だということになります。

 OSを知るために「御社のマネジメントスタイルは何ですか?」と総務や人事の担当者の方に聞いても、ご本人たちも判断に困って答えられない場合があります。

 そこで、私は次のような質問をしています。

「現場での決裁権限は与えられているほうですか?」

「経営陣、経営トップは現場に仕事を任せるタイプですか? それともトップがアクションプランを立て、司令官的に采配するタイプですか?」

 こういった質問をすると、マネジメントスタイルが浮き彫りになります。その判断軸を元に、企業や病院と候補者とのマッチングを図っているのです。

 なお、社内の清掃や観葉植物の管理は外注していることがほとんどなので、最近ではまったく判断がつかなくなってきました。設備や業績よりも、やはり大きな判断基準になるのは、「人」なのです。

 個人的には、自己肯定感(自分のいいところも、悪いところも認める力)のある人が多い企業や病院が、いい職場のように感じています。そして他者・他社軽視感も低い、しずかちゃんタイプの職場なら、いい人材が自然と集まって来るのではないかと思います。

 要するに、候補者も職場も自分のOS=人間性を十分に把握することが一番大切なのです。

 

2018年8月17日

武元康明

手紙・名刺をお持ちの方