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半蔵の心得

第14回 ヘッドハンターから見た日本の医療(後編)

医療業界のよい点

 ここまで医療業界の問題点を紹介してきましたが、それでも私はこの業界には希望があると考えています。日本の医療ならではのいい面もたくさんあるからです。

 ここからは医療界の長所について考察します。

 

・国民皆保険制度がある

 アメリカでは保険の種類で受けられる医療が制限され、いい保険は保険料が高くなります。保険に入っていない国民は高額の治療費を払わなければならないので、お金を持っている人しか治療を受けられない状況になっています。

 日本は保険料が上がっていますが、それでも、誰でもいつでも低額で治療を受けられるのは優れた制度だと思います。高額医療も、上限額を超えたら治療費を支給してもらえます。

 地域によって料金に差が出ることもなければ、医師の腕によって料金が変わることもありません。全国どこでも一律の料金で治療を受けられるのは、世界的に見てもかなり恵まれているのではないでしょうか。

 

・フリーアクセスがある

 日本では、患者さんが自由に行きたい病院を選べる「フリーアクセス」という仕組みが成り立っています。実は、これは世界的に見ても稀で、欧米ではかかりつけ医にまず診てもらい、その医師が対応できない場合に病院や専門医を紹介してもらえます。大きな病気であったとしても、入院するまでに時間がかかってしまうのです。

 外来受付をしていない国もありますし、日本のように風邪やケガの治療をしてもらいに大学病院に行くのはあり得ません。フリーアクセスがあるがゆえにどこの病院も混んでしまうというマイナス面もありますが、それでもその日のうちに治療してもらえるのは患者さんにとって最大のメリットです。

 

・医療者の平均レベルが高い

 中国人が治療を受けるために日本に来るケースが増えているように、日本の医療の技術は世界的にもかなり高いと言えるでしょう。肺がんと食道がん患者の5年生存率は、日本は世界1位で、肺がんは32.9%、食道がんは36%です。もちろん、日本が世界的な長寿国になったのも、医療が優れているからです。ユニセフ(国連児童基金)の発表によると、日本は世界で一番新生児死亡率が低い国です。日本の新生児死亡率は0.9%で、1,111人に1人の割合となっています。

 また、先日ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑教授やiPS細胞の山中伸弥教授といった優れた医学者も日本には大勢います。初のエイズ治療薬を開発したのも、日本のウイルス学者の満屋裕明氏です。満屋氏は、最初に開発した薬を製薬会社が高額な料金で販売し、すべての患者に行き渡らないことに憤りを感じ、第2、第3の薬を開発し、アフリカの貧しい人でも購入できる価格で提供しました。

 アフガニスタンで活動している中村哲医師も日本の誇りです。中村氏は診療所を開くだけではなく、1600本の井戸を掘り、25㎞の用水路をつくって干ばつで苦しんでいた土地で農業を再興させています。

 そのような高い倫理観と高い志のある医療者がいるのは、日本にとって希望の光だと思います。これからも、技術はもちろんのこと、心のある医療者が増えてほしいと願っています。

 

・設備がいい

 日本の人口100万人あたりのMRI保有数は51.7台で、OECD諸国の平均15.2台をはるかに上回っています。また、CT保有数は100万人あたり107.2台で、OECD諸国の平均25.4台の約4倍です。

 救急車を無料で利用できるのも日本ならではの利点で、海外では有料の国もあります。アメリカでは1回利用すると300~500ドル支払うことになり、救急車の中で受ける手当も有料だそうです。オーストラリアは約97000円(50キロ以内)。日本でも救急車を有料にしようという議論もありますが、誰もが利用できるというメリットはなくさないでほしいものです。

 

・ホスピタリティが高い

 日本と海外では看護師の担う役割がかなり違います。日本の看護師は患者さんの体を拭いたり、食事の配膳やおむつの交換など、きめ細やかな対応をしていますが、海外では分業が進んでいるので看護師はそこまではしないそうです。そのため、外国人が日本の病院を利用したときは看護師のホスピタリティの高さに驚くのだと言います。

 前述した村重直子氏は、アメリカの病院で働いた経験があります。村重氏は、アメリカの医療より、日本の医療のほうが「心」があると語っていらっしゃいます。アメリカでは医師の交替制が浸透している反面、勤務時間が終わるころに急患が来ても、他の医師に押しつけて帰ってしまうそうです。

 また、アメリカでは緊急を要する患者さんをERで受け入れても、必要な治療ができないときは転院させるまでに23日かかることもあると言います。その間はほぼ放置です。日本は救急車でたらい回しにされたという話を聞きますが、それでもその日のうちにどこかの病院で受け入れてもらって治療を受けられるので、まだいいほうなのかもしれません。

 理学療法士や作業療法士といった専門家も熱心で、丁寧に患者さんのケアをしています。医師も以前は態度が悪いと批判されていたこともありますが、現在は一部を除けば対応がよくなりました。日本人は基本的にホスピタリティ精神が高いのでしょう。

医療は日本経済のエンジンになる

 医療は公共の福祉として、非営利性を求められています。しかし、資本主義社会では採算を取るために営利性も求められます。

 そして、医療はアベノミクスの第三の矢の成長戦略の1つに選ばれ、「経済のエンジン」にするべく動きがここ数年で活発になりました。日本の医療技術を海外に輸出する試みはすでに始まっていますし、外国人に日本まで治療を受けに来てもらうメディカルツーリズムも、活発ではないにしろ行われています。

 医療を経済エンジンにして街を活性化させた成功例として、ピッツバーグの政策が注目されています。

 ピッツバーグは70年代までは鉄鋼の街として栄えていましたが、80年代に鉄鋼業が衰退していくと大量の失業者が生まれ、人口が流出し、街は寂れていきました。そこで脱産業化に大きく舵を切り、医療や教育に力を入れる政策をとったのです。

 まず、ピッツバーグ大学病院を別法人化し、メディカルセンターとして20の大学病院、19の地域病院や専門病院、400の診療所や養護施設を運営する巨大な医療機関にしました。55000人の従業員を抱え、収益は8000億円以上だそうです。日本を含め、海外に進出して病院を運営したり、技術や教育支援を行って収益も上げています。

 そして収益は地元に還元し、貧困者を対象に無料の治療を行ったり、若者の教育支援に充てているのです。今では、世界中から優秀な医師が集まって来る街になりました。

 さらに、カーネギー・メロン大学とピッツバーグ大学というさまざまな研究成果を生んでいる大学もあり、ピッツバーグは「教育と医療の街」として見事に再生したのです。

 日本でもピッツバーグをモデルケースにして医療で経済の活性化をしようと試みている地域もありますが、なかなか進まないようです。ピッツバーグも20年以上の時間をかけて「教育と医療の街」として再生を果たしたのですから、改革には時間はかかるのでしょう。だからこそ、今からでも改革をスタートさせるべきではないでしょうか。

 

 日本の少子高齢化は避けられません。これを強みにし、少子高齢化向けの医療方法を中心にしたサービスを発展させればいいのではないかと思います。

 日本は治安もよく、70年以上も戦争をしていない平和な国でもあります。現在、円は世界一安全な通貨と言われていますし、四季や自然も豊かなのでインバウンドの需要も高まっています。これらを利用すれば、命の国、癒しの国として発展できると思うのです。

 医療に限らず、日本はやはりホスピタリティの高さにおいては世界一だと思います。介護や福祉に携わる方々の意識も高く、たとえ給料は安くても人の役に立ちたいと思う方達の「利他の心」によって何とか成り立っているのが現状でしょう。

 フィンランドは、人工知能で世界トップレベルになるのを目指して国を挙げて技術開発に力を入れています。一方で、医療や福祉ではAIに一部は置き換わっても人と人が接する部分はなくならないだろうと、看護を教える訓練校は人気があり、就職率は100%だそうです。

 日本も医療、介護、福祉の分野で、技術だけではなく、世界一のホスピタリティを提供できるようになれば、世界中から人が集まり、一大産業になるのではないでしょうか。

 その収益を現場や地域に還元すれば、介護や福祉の現場で働く方々の生活は保障され、地域でも満足な医療や介護を受けられるようになります。人を助けながら利益を上げられる、つまりやりがいも利益も、両方手に入れることができるのです。

 命の国、癒しの国になれば、経営者も働く人も利用する側も、すべてが幸せになれるでしょう。そういう国をつくるのは、決して夢物語ではないと思います。

 

20181023

武元康明

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