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半蔵の心得

第15回 「自尊心」は両刃の剣 ――あなたの自尊心、大丈夫ですか?

 私はヘッドハンターという仕事を通して、多くのリーダーと出会ってきました。

 よいリーダーの条件とは何か。それを一言で答えるのなら、「自尊心」の在り方ではないかと思っています。もちろん、リーダーシップや責任感、大局観など、リーダーに必要な資質は数多くあります。しかし、資質や能力を100挙げたとしても、自尊心の在り方次第では、すべてが無意味になります。

 リーダーになる方は、基本的に自尊心が高い傾向があります。ただし、その自尊心が職場全体にプラスに作用する場合と、マイナスに作用する場合があるのです。その違いは一体何なのでしょうか。

 今回は、正の自尊心と負の自尊心について考えてみたいと思います。

そもそも自尊心とは?

 そもそも、自尊心とは何でしょうか。

 自尊心は英語では「Self-Esteem」と言い、自尊心はその訳語です。つまり、欧米から来た概念で、元々日本にはなかったということになります。

 明鏡国語辞典によると、自尊心は「自分の人格を大切にし、品格を保とうとする気持。また、自分の考え方や言動をすぐれたものと思い、尊大に構える態度。プライド」とあります。

 注目すべきは最後の「プライド」という部分です。元々の英語にはプライドというニュアンスは少なく、むしろ「俺ってすごい、イケてる」という自己肯定感の意味合いが強いようです。日本では、明治時代に発表された新渡戸稲造の『武士道』に「自尊心」という言葉が出てきますが、既に「プライド」という意味合いで使っていました。この辺りからプライドというニュアンスが強くなったのかもしれません。

 私は以前、ある大企業に依頼を受け、女性役員の候補になる人材を探して紹介したことがあります。しかし、前向きな依頼ではなく、安倍政権が打ち出した「女性が輝く社会づくり」において「役員に一人は女性を登用してほしい」との要望があったので、仕方なく採用することにしたそうです。

 ところが、男性幹部達がことあるごとにその女性の足を引っ張り、結局役員になれないまま現在に至ります。これは幹部達の男としての自尊心が負となって邪魔をし、女性の能力を認められなかった例でしょう。

 日本人は総じて自尊心が低いと言われています。とはいえ、日本人の自尊心が低いのは、日本では謙遜を美徳としているので、自信があっても表に出さないようにしているからではないかという海外の研究もあります。自分を低めて相手を高く持ち上げることで、日本の社会は円滑に進んでいる面もあり、欧米から羨ましがられているそうです。

負の自尊心は害悪になる

 自尊心は低いより、高いほうがいいのは間違いないでしょう。

 私は、自尊心は次の6つの要素で構成されるのではないかと考えています。

 ①自己肯定感 ②プライド ③自信 ④正義感 ⑤誇り ⑥排他 

 この最後の「排他」のバランスによって、自尊心の性質が変化します。「排他」が多いと態度が硬直化し、他人にマイナスの影響を及ぼす、「負の自尊心」に変質するのではないでしょうか。

 さらに、何に対して自尊心を持つのかによって、この6つの要素の割合は変わってきます。

 たとえば、

・今の会社の社員であることに自尊心を持つ

・自分の現在や過去の立場、肩書に自尊心を持つ

・会社や学校での成績がトップであることに自尊心を持つ

・誰にでもできない仕事をしていることに自尊心を持つ

・「よい人間」であり、人として間違ったことをしないことに自尊心を持つ

・親として家族を養うことに自尊心を持つ

 のように。

大きく分けると、自分の人格や能力、資質と肩書や地位、所属している組織集団に分かれます。

 私は、「排他」が強く出た事例に度々遭遇してきました。

 私がある病院に紹介した医師は、その分野では国内でも有数の技術を持つ方で、迎え入れた病院側も、最初は大変喜んでいました。しかし、働いているうちに負の自尊心が目立ってきたのです。

 しばらくすると、職場の看護師や同僚の医師から、「あの先生とは一緒に働きたくない」という苦情が事務局に寄せられ、辞める人が続出しました。そこで事務局が調べてみたところ、同僚医師に暴言を吐いたり、看護師を見下すような発言が多かったのです。

 最終的には、病院はその医師との契約を打ち切ると決めました。その病院は、心技体の「技」より「心」を選んだということでしょう。医療の世界もチームで治療を行うので、一人の技が突出していても、自尊心が強すぎてまわりに害を及ぼすようではやっていけません。

 契約を切られた医師は、「自分より能力が劣る人間がクビを切られないなんて、おかしい」と憤っていました。こういう事例を間近で見ていると、やはり自尊心は両刃の剣であるのだなと、つくづく実感します。

 その医師は自分の医療の技術に自尊心を持っていたのでしょう。それ自体は悪いことではありません。しかし、自分に自信を持ちすぎて他の人を見下す「排他」が占める割合が多くなってしまったので、チームプレーができなかったのです。

「良心」が正の自尊心を育てる

 一方で、正の自尊心を持っている方と出会ったときは、私は何ものにも代えがたい喜びを感じます。

 もう20年ぐらい前の話になりますが、バブル期に過剰投資をしていた証券会社が破綻に追い込まれました(なお、山一證券ではありません)。私はその会社が破綻する前から幹部のAさんと接触をし、別の企業への転職を勧めましたが、「私はこの会社で定年まで勤め上げるつもりだ」とにべもなく断られました。

 いち早く逃げ出す幹部もいたなか、Aさんは部下達100名を再就職させるために奔走し、最後まで残って会社の清算業務を行ったのです。顧客からは毎日のように怒号を浴びせられ、気が休まる時はなかったでしょう。私に転職の相談があったのは、すべての業務が終わってからでした。

 私はその姿に感銘を受け、役員を探していた企業に紹介しました。すると、その企業の経営者は「有事に逃げださずに最後までやりきる誠実な方に、ぜひわが社に来てもらいたい」と即決したのです。

 通常、倒産した企業の社員は転職の時に不利だと言われています。実際にその証券会社でも、我先に逃げ出した社員の中には転職先がなかなか見つからず、マイホームを売った社員もいたという話も聞きました。

 私は、会社に対する忠誠心だけがAさんにそこまでの行動をとらせたのだとは考えていません。Aさんは人として正しくあろうとしたのではないでしょうか。自尊心の中でも正義感や誇りが強く、一言で言えば「良心」を持っているということかもしれません。

 誰に認められなくても、誰かが見ていなくても、自分の正義を貫こうとする自尊心がある方は、どんな状況であっても道を踏み外さないのだろうと思います。

AIに自尊心は理解できるか

 現在、AIの登場でなくなる職業、生き残る職業の議論が活発に行われています。

 私は、AIに勝つには自尊心がキーワードになるのではないかと考えています。AIは年々進化していて、人の感情を読み取るAIや、好奇心を持ったAIなども開発されています。AIはどんどん人に近づいていっているのです。

 しかし、AIが自分の良心に従って、自尊心を持つ行動をとるようになるのは不可能ではないでしょうか。

 「ハーバード白熱教室」がブームになったころ、トロッコ問題が話題になりました。

 線路を走っているトロッコが故障し、制御不能になりました。線路の先には5人の作業員がいるので、そのまま突き進むと5人が轢かれてしまいます。分岐点でレバーを切り替えれば、別の線路に導くことができますが、そちらの線路には一人の作業員がいます。あなたが分岐点にいるなら、レバーを切り替えますか、切り替えませんか――というのがトロッコ問題です。

 現在、自動運転車の開発が活発ですが、このトロッコ問題が解決できなければ自動運転車は実用化できないという意見もあるようです。

 たとえばAIが搭載された自動運転車を運転していたとします。断崖絶壁の下り坂でブレーキが利かなくなり、その先に二股の分かれ道があります。一つの道は大きな木が倒れてふさがれており、もう一つの道には人が歩いています。

そんな場合、皆さんならどうしますか? 歩行者をはねるか、木に激突するか。この答えに正解はなく、それぞれが自分の良心に従って答えを導くことになるでしょう。

 AIの場合、歩行者を助けるようプログラミングされているなら、車を木に激突させる方を選ぶでしょう。その結果、運転手は大けがするかもしれませんし、亡くなるかもしれません。あるいは、運転手を助けるようプログラミングされているなら、人がいる道を突き進んではねてしまうでしょう。いずれにせよ、プログラミングするのは人間なので、人間が「どちらを生かすか殺すか」を選ぶということです。

 もし、私が車を運転していた場合、迷わず木に激突するほうを選ぶでしょう。たとえ自分の命を落とすことになったとしても、人をはねてまで生き残りたいとは思わないからです。生き残ってもその行動を自分の自尊心が許さず、幸せになるとは思えません。

 AIには自尊心を傷つけられる苦しみは分かりません。どちらを選ぶのにも葛藤しつつ、悩み成長していくのが人間です。たとえ感情や好奇心を持ったAIがつくられたとしても、自尊心を理解できるのは、まだまだ先だと思います。

 今回、自尊心を考えてみて、その意味の深さと多様性、難しさを痛感しました。私達は人間としての自尊心を持って生きていくことこそが大切ではないでしょうか。

 

20181119

武元康明

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