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半蔵の心得

第16回「崖っぷち日本への処方箋  ―これからの雇用慣行のあり方―(前編)」

 私達は本当に豊かなのでしょうか。精神的な豊かさについてはさまざまな考え方がありますが、経済的にはどうなのでしょうか。

 確かに、戦後の焼け野原だった時代から考えると豊かになってはいますが、高度経済成長期を経てバブル期を頂点に下り坂になり、豊かになったような実感はそれほどない気がします。政府は手を替え品を替え、好景気だとアピールしているものの、サラリーマンの給料が20年間も上がらないのは世界的に見ても稀なようです。

 私は、日本経済はいまだ下り坂であり、このままいくと東京オリンピックや大阪万博が終わった後にバブル崩壊以上の大打撃を受けることになるのではないかと考えております。

 今年最後のコラムで、これから日本はどこに向かえばいいのか考察したいと思います。

まず「都合の悪い現実」を見よう

 皆さんは日本の(名目)GDPは中国に抜かれたものの、いまだ世界3位の座を守っているので(IMF基準)、経済の強い豊かな国だというイメージがありませんか。しかし、一人当たり(名目)GDPになると、日本は世界で25位。上位はルクセンブルクやスイス、ノルウェーなどヨーロッパの国が大半を占めています。一人当たりGDPになるとアメリカも8位、中国に至っては74位になります。

 イギリス人アナリストであり、小西美術工藝社社長であるデービッド・アトキンソン氏は著書『新・所得倍増論』(東洋経済新報社)で、「GDPは人口×生産性で割り出すので、人口が多い国はGDPが高くなる」と語っています。上位3か国は1億人以上の人口を抱えているので、GDPは高くなるのです。

 対して、国民一人一人の豊かさを割り出すのが一人当たりGDPであり、これによると日本の一人当たりの所得は38,449ドル(約434万円)となります。アジアではトップのマカオの約半分です。

 さらに、アトキンソン氏によると、日本は輸出額世界第4位の輸出大国であるにも関わらず、1人当たり輸出額は世界第44位。日本と同じように「ものづくり大国」といわれるドイツは第14位で、日本の約3倍の輸出額です。これを見ると、「日本のものづくりの技術は世界で認められている」とは言いづらくなります、現に、スマートフォンの世界シェアは、1位は韓国のサムスン、2位は中国のファーウェイ、3位がアメリカのアップルです。トップ10に日本のメーカーは入っていません。

 このように、あらゆるデータは一人当たりで割り出すと、普段言われているデータとはまったく違う現実が見えてきます。そのうえ、日本の時間当たり労働生産性は一人あたりで割り出さなくても、46.0 ドルでOECD 加盟 35 ヵ国中 20 位(2017年)。これらのことから考えると、日本は本当に豊かなのかと疑問が湧いてきます。

 本当は日本の抱える課題はずっと前から分かっています。アベノミクスの三本目の矢は成長戦略で新しい産業を創出することを期待されていました。しかし、医療分野をテコ入れし、海外に輸出できる一大産業(国際交流)にしようとする動きはあったものの、頓挫しているという話をあちこちで耳にします。 

 少子高齢化にしても、少子化が進んでいたフランスでは出生率を上げるために2人以上の子供を産んだ家庭への手当や子育てのサービスを厚くするなどして、「産めば産むほどお得」という環境を整えました。結果、出産率を上げることができたのです。

 イギリスではブレア政権の時に、「最低賃金を上げれば仕事の生産性が上がるのでは」という仮説を立て、最低賃金を上げてみるとその通りの結果になり、現在はOECD 加盟 35 ヵ国中16位。一方、日本の最低賃金は先進国の中で最下位です。

 日本人は知識も情報もあり、勤勉で優秀なので、本当は問題点に対する解決策も分かっています。それでも変えようとしないのが日本ではないでしょうか。国民もいい方向に変わるのを諦めてしまっているので、閉塞感につながっているように感じます。

プロ経営者は救世主か ―内部労働市場と外部労働市場

 それなら、日本企業はどうすれば復活、発展できるのか。

 そのための解決策として注目されてきたのが「プロ経営者」です。

 人材の調達方法には2種類あり、一つは企業内で社員を育成し、昇進や昇格させる「内部労働市場(以下、内部)」。内部は日本の多くの企業で一般的であり、年功序列や終身雇用といった雇用慣行が生まれやすくなる雇用慣行です。もう一つは人材が不足したときにハローワークや転職サイト、ヘッドハンターなどを使って社外から調達する「外部労働市場(以下、外部)」。日本でもバブル崩壊以降は転職がさかんになり、外部労働市場が活用されるようになりました。プロ経営者は外部での調達になります。

 アップルの米本社の副社長であり、日本法人の社長だった原田泳幸氏は米マクドナルドからヘッドハンティングを受けて2004年に日本マクドナルドのCEOとなりました。そのころから、日本にも欧米のように企業を渡り歩くプロ経営者が増えていくのではないかと言われるようになりました。原田氏は店舗を大量に閉店し、24時間営業店を増やし、100円マックを導入し、成果主義型人事制度を導入するなど、次々と大胆な戦略を実践し、低迷していたマクドナルドを劇的に回復させました。

 ところが、現場力は低下していき、12年に再び業績は悪化します。その後、原田氏はマクドナルドから退き、ベネッセに代表取締役会長兼社長として迎え入れられ、リストラやコスト削減、新規事業の立ち上げを進めましたが、業績不振のまま2年で退任しました。

 原田氏の例に限らず、短期的に成果を上げることで株価を上げる、欧米型の経営手法は日本ではなじまないのではないかと、私は常々考えています。

 ちょうど今、武田薬品がアイルランドの製薬大手シャイアーを買収しようとするのを創業家一族が「待った」をかけ、話題になっています。武田薬品の社長でありCEOであるクリストフ・ウェバー氏は、元はグラクソ・スミスクライン・フランス社のトップでした。武田薬品は元々同族経営でしたが、武田國男氏の代に終わりになり、海外勤務の長い長谷川閑史氏を社長に据えてから、グローバル化が一気に進められました。ウェバー氏を次の社長に迎えて、幹部も外部から招き入れたのです。

 ウェバー氏はシャイアーを買収することで、世界シェア8位に食い込もうとしています。これに対して創業家一族は、「あまりにもリスクが高すぎる」と反対しているのです。

 これもプロ経営者の典型でしょう。その企業が50年後も100年後も継続することを考えるのではなく、今世界で勝つことだけを考える。そういう手法は果たしてうまくいくのでしょうか。

復活への処方箋 ―「和の文化」を大切にする

 一方で、元カルビー会長の松本晃氏のように、その企業の社風や文化を重んじ、その企業の製品を愛し、長期的な視野に立った改革をする経営者は、外部からの登用であっても成功しています。松本氏もいくつかの企業でトップを務めていますが、いわゆる「プロ経営者」とは一線を画しています。決して短期的な業績アップを目標としているのではなく、その企業の体力を抜本的に改善するような取り組みを徹底しているのです。

 その企業の中に深く入り込んで、共に歩んでいく。異なる文化や価値観を強引に押しつけたりしない。日本の多くの企業には、そのような「和の文化」があります。

 グローバル経営を目指そうと、壊したり切り捨てることを厭わない欧米流の文化にならった改革をしても、日本ではうまくいかないでしょう。日本は日本流の経営を模索すればいいのだと思います。

 実は、欧米では経営幹部を外部から調達するのが当たり前というイメージがありますが、実際にはそうでもありません。「ハーバード・ビジネス・レビュー(20172月号)」の「世界のCEOベスト100」によると、世界的企業のCEO 100人のうち84人が内部昇進だそうです。日本のように新卒からずっとその会社で働いていたケースは少ないかもしれませんが、ゼネラル・エレクトリック(GE)も約140年続いた歴史の中で外部から人材を調達してCEOに据えたのは今年10月の人事が初めてです。

 むしろ、アメリカではCEOの内部昇進率は10年前よりも10%ぐらい上がっています。「CEO を内部から輩出できる人的資源の厚みがないようでは競争に勝てない」という見方が主流だそうです(ニッセイ基礎研究所「CEOの内部昇進」江木 聡)。

 結局、グローバル社会になればなるほど、企業の内部を知りつくし、長期的な視野に立って戦略を練れる人材でないと、世界の舞台では戦えないのではないでしょうか。

 そして、内部から経営幹部を調達する場合も外部から調達する場合も、大切なのは「自尊心」なのだと思います。自尊心の低い人が経営者になると、短期的な利益を上げるために、リストラや大胆なコストカットをして社内を疲弊させてしまうケースもあります。~後編に続く(12月26日公開)~

  

20181220

武元康明

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