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半蔵の心得

第17回「崖っぷち日本への処方箋  ―これからの雇用慣行のあり方―(後編)」

 前回(第16回)、企業は経営者に自尊心がないと、一時的に業績はよくなってもいずれ低迷するとお話しました。

 それは、企業の理念や風土といった土台部分を壊し、内側から蝕んでいくからでしょう。

 第15回のコラムで正の自尊心、負の自尊心についてお話ししました。組織のマネジメントで重要なのは、正の自尊心であるのは言うまでもありません。

 そして、社員一人一人が正の自尊心を持つためには、組織や権威に基づくのではなく、自分自身が能力や人間力を磨かなくてはなりません。

 後半は、自尊心を高めるためのマネジメントについて考察します。

自尊心を鍛えるマネジメント

 10年ほど前、「会社は誰のものか」という議論が活発になりました。

 経営者のもの、株主のもの、社員のもの、お客様のもの……と様々な意見がありましたが、私はそれぞれのバランスが大切だと思います。今は株主と経営者への比重が大きくなっているのではないでしょうか。自尊心を養うには、その比重を社員とお客様のものへと戻さなくてはなりません。

 それは理念を持ち、長期戦略を立てられる経営者でないとなかなか実行できませんが、社員やお客様の比重が大きくなると社員の自尊心を養う土壌ができ、種まきをできるようになります。

 そして、種をまいた後に自尊心の芽を育てるのに有効なものの一つに、「ミドルアップダウン・マネジメント」という経営手法があります。

 ミドルアップダウン・マネジメントは1995年に野中郁次郎氏と竹内弘高氏との共著『知識創造企業』(東洋経済新報社)で提唱された方法です。トップダウンやボトムアップでもない、ミドルマネジャーやミドルリーダーといった中間層が主体的に動くマネジメントで、日本企業はこのスタイルが適していると野中氏は説いています。

 ミドルアップダウン・マネジメントの場合、ミドル層は幹部の意向を現場にただ伝えるだけのメッセンジャーになるのではなく、企業のビジョンや理念、経営戦略に基づいて解決策や新しいビジネスモデルを考え、現場を動かす旗振り役になります。同時に、現場に問題があれば、それをどう解決するかを幹部に提案するのもミドル層の役目です。

 ミドルが現場で判断し、行動するためにはある程度の権限の強化が必要になります。何でも上層部の判断を仰ぐ組織では、ミドルアップダウン・マネジメントはできないでしょう。

 一般的に、ミドル層は上司と部下との板挟みになり、部下から不満が噴出しても、「上が言っているから、仕方ないだろ」と押し付けてしまいがちです。これだと自分の職務に対して誇りも自信も持てないでしょう。次の昇進まで大きな問題を起こさずに乗り切ろうと、保守的になっている人も少なくないと思います。

 しかし、自分の使命を自覚し、自分が中心になって企業を動かそうとしたら、行動は明らかに変わっていきます。私が今まで取引してきたなかでも、ミドルアップダウン・マネジメントが機能している企業は社内全体に勢いがあり、社員一人一人が仕事に対して誇りを持っているような印象を受けました。

 そのような主体性は持って生まれたものではなく、教育で培えるものだと思います。今はどの企業でもミドル層の教育は大事だと痛感し、さまざまな研修やセミナーを受講させているでしょう。リーダーシップ研修や修羅場体験をさせる研修など、主体性を鍛えるプログラムは数多くあります。

 しかし、どんなに高額な研修を受けても、その場だけで終わってしまったら意味がありません。普段の仕事の場で実践してこそ意味がありますし、それ以前に自分は何をすべきか、どう生きるべきかという軸が定まらないと自尊心を持てるようにならないでしょう。

無印良品に学ぶミドルアップダウン・マネジメント

 ミドルアップダウン・マネジメントがうまく機能している企業として、無印良品を展開する良品計画があります。

 無印良品の店舗はナチュラルで洗練された雰囲気が漂っていますが、実は隅から隅まで2000ページに及ぶMUJIGRAMというマニュアルに基づいて店づくりは行われています。本部には業務基準書と呼ばれる6000ページものマニュアルがあり、名刺の管理の仕方や商談内容の共有の仕方までがっちり決められています。これらは良品計画の前会長松井忠三氏が仕組みをつくりました。

 すべてをマニュアル通りに進めていたら効率化は実現できても、自分の頭で考える社員が育たないのでは――という疑問がわいてくるでしょう。松井氏はその常識を覆すような人材育成の仕組みをつくりました。

 良品計画は課長になると、全員が3カ月間海外研修に行くことになっています。特筆すべきは、どこの国でどのような研修をするのかは会社が決めるのではなく、課長が自分で決めなくてはならない点です。それどころか、現地で滞在する場所も自分で探さなくてはなりません。予算は決まっているので、各自予算を考慮しつつ、自分がしたいことを決めるのです。

 無印良品は海外に進出しているので、海外の店舗で今の業務に関係するような仕事を体験する計画を立てる人が多いようですが、なかにはまったく関係のない企業で研修させてもらう社員もいます。「パスタソースを開発したい」とイタリアに行き、3カ月間ひたすらパスタを食べて回った社員もいたそうです。

 課長が3カ月間も抜けたら現場は混乱しそうですが、そういう時のために業務基準書があります。現場の社員も課長に相談せずに自分で考えて行動できるようになり、それぞれの立場で自立した社員が育っていくのです。

 そうやって3カ月間海外で揉まれに揉まれてきた課長たちは、帰国後一回りも二回りも成長して、自分が得た知識やスキルを仕事に用いるようになります。

 しかし、何よりも、3カ月間誰のサポートも受けずに一人で乗り切った経験は、何ものにも代えがたい自信になります。自分がこれから良品計画で何をしていくのかを見つめ直す機会になるでしょうし、自分の人生を再構築する機会になるかもしれません。それが自尊心を高めることにつながるのだと思います。

 松井氏は、効率性を追求するソフトの部分と、社員の人間力を鍛えるハードの部分をうまく組み合わせた人材育成の仕組みをつくりました。その結果、海外に進出する際に、海外で暮らした経験がまったくない中堅社員を派遣し、現地に事務所をつくるところから一人で任せても、たいていの社員は自分で考えながら何とかするそうです。言葉が通じなくても何とか現地の人とコミュニケーションをとり、無印良品の哲学や理念を伝えて、無印良品の世界観を壊さないようにする。これはミドルダウンアップ・マネジメントが機能しているからこそ、できるのでしょう。

 ここまで見事にミドルダウンアップ・マネジメントが機能している企業はなかなかないのではないでしょうか。 (この項『無印良品の、人の育て方』松井忠三著、KADOKAWAより)

これからの日本が目指すべき雇用慣行

 アメリカでは最近「ノーレイティング」という評価制度を企業が取り入れるようになっています。「ノーレイティング」とは、企業の人事評価において、相対評価で社員をランク付けする年次評価をやめること(「日本の人事部」より)です。GEやギャップ、マイクロソフト、IBM、アドビシステムズ、アクセンチュアといった名だたる大企業が導入していることから、注目を集めています。

 現在、日本では大企業を中心に「SABC」というランクをつけて社員を評価する仕組みを取り入れています。そのために、1年に12回社員一人一人が目標を設定して、どこまで達成できたのかを判断するのが主流です。これもアメリカから輸入した評価制度です。

 ただ、この方法だと目まぐるしく環境が変化する現在では時代のスピードについていけない、社員が目標を低く設定しがちになる、ずっと評価が低いとモチベーションが下がるといった問題点があります。そこで、日々の業務での改善点は即フィードバックすることでパフォーマンスの質を上げようというのがノーレイティングの目的です。評価はまったくしないわけではなく、上司が部下の貢献の度合いによって報酬を決めます。頻繁に話し合ってコミュニケーションをとっていれば、部下にとっても納得のいく評価になるだろうと考えられています。

 つまり、アメリカ型の評価制度を導入しても、日本に根付くころにはアメリカは時代の変化に合わせて新しい方法を生み出しているということです。アメリカに追随していたら、日本はずっと周回遅れのままです。

 ノーレイティングにしても、既に導入している日本企業では、上司が部下とこまめにコミュニケーションをとるのが負担になっていたり、うまく機能していないところもあるようです。おそらく、ミドル層の権限を強めるミドルアップダウン・マネジメントでないとうまくいかないでしょう。

 私は、終身雇用には賛成ですが、昔ながらの年功序列には反対です。

 何らかのポリシーを持って年功序列を用いているケースは例外ですが、たいていは仕事ができなくても長く勤めていればそれなりのポストにつける年功序列ばかりです。

 それだと有能な若手社員は疑問を抱き、企業の将来性に見切りをつけます。現在、GAFAGoogleAppleFacebookAmazonの頭文字をとった言葉)に転職する若手社員が後を絶たないのは、そのためでしょう。したがって、実力主義に切り替えるしか道は残されていないと思います。ちなみに、前述した良品計画は、終身雇用と実力主義を実践しています。

 少子高齢化が加速している日本において、人材は今まで以上に宝になります。優秀な人材を流出させないために、教育制度をしっかり整備して長期的に人材育成をしている企業も増えてきています。

 いずれにせよ、コミュニケーション力は今まで以上に求められるでしょう。現在、AIが発展すれば人間の仕事は奪われるとさかんに言われています。確かにAIは正しい答えを導き出せるかもしれませんが、その答えを用いてどう対処するかを考えるのは人間です。自尊心や哲学、理念に照らして正しい行動を決めるのは人間にしかできないのではないでしょうか。

 そのためにも、自尊心を高める教育を社会全体ですることは急務です。これからの企業は利益を追求するだけではなく、自尊心の高い人材を育てる環境を整えるべきではないかと、私は考えております。

 

20181226

武元康明

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