ハマグリの思い出を島根に寄せて

島根といえば、神話に縁が深い神聖な土地というイメージが強い。出雲や石見の神楽は端的に神話との関わりを伝えてくれるし、小泉八雲が松江で過ごしたのも島根のこうした面を愛したからだろう。
だが、私が今から書こうと思っているのは、そうした高尚(?)な話と全くもって無関係。
島根の中心部である東部に対して、多くの人にとっては印象が薄いであろう西部。そこに位置する益田市にまつわるエピソードだ。
一般的に東部に対して西部は地味で、私のビジネスの相手たる医師たちの数も少ないと思われがちだ。
しかし、イメージに反して西部にも優秀な候補者がかなりいる。
そのうちのお一人を、三重の病院に紹介したことがあった。
紹介先の病院があったのは、はまぐりで有名な土地。
奥様と一緒にそこを見て回りたいという益田市の候補者にも当然、はまぐりの有名店を紹介した。
後日、彼に会うために、今度は私が益田市に赴いた。
そこでふらっと入った居酒屋で出てきたのは、なんと立派なはまぐり。
その時に初めて知ったのだが、益田もはまぐりの産地だったのだ。
三重で紹介した店で私もはまぐりを食べていたが、正直益田のはまぐりの方が一回りかふた回りほど大きい…
食事に関してそれなりに自信を持って生きてきたが、その土地土地の食についてもっとリサーチをしなければと、深い反省をした苦い思い出である。
益田で大きな大きなハマグリを見た瞬間の「しまった…!!」という感覚はいつまでも尾を引きずり、それ以来候補者にはまぐり料理を紹介すること自体なくなってしまった。
たまには、こんな失敗談はいかがだろうか。
江戸前鮨のなかでも煮ハマグリは好物だが、この一件以降は甘いタレの中に一抹の苦みを感じるのである。
2020年8月13日
武元康明