佐賀の味と「感動」の共有

以前福岡に住んでいたことは触れたが、そのお隣佐賀県も、福岡時代の思い出が詰まった場所である。
とはいえ、私の思い出といえば情緒のかけらもない、相変わらず食に関わるものである。
佐賀県にはたくさんの観光地があり、県も観光PRに力を入れているが、何をおいてもまず脳裏に浮かぶのは唐津の赤ウニなのだ。
家族で唐津方面にドライブをすることがあり、その際には季節が合えばみんなで赤ウニを食した。
ミョウバンの味を感じない、しっかりとした甘味。
初めて食べたときの感動は忘れられるものではない。
ついで思い出されるのは、呼子のいかしゅうまいだ。
白いふっくらとした見た目に対して、口に入れるとはっきり広がるイカの旨味。こうして書いていると、あの味と香りが懐かしくてたまらなくなる。
とにかく、佐賀の味が好きなのである。
これらは娘にとってもインパクト大だったようで、10年経った今でも夏になると「佐賀に行きたい……」と遠くを眺めながらつぶやいている。
彼女の目線の先には、佐賀の海岸線と艶やかなイカやウニがくっきりと見えているのかもしれない。
人の記憶というのは五感に関連づけられたものほど、引き出しやすくなるそうだ。
そういう意味では、半蔵紀行でも味覚に関連した記事が多くなっているのも当然……ということで大目に見て欲しいところである。
何も、高級なものばかりがいいというわけではない。赤ウニや、私が好きなうなぎは確かに高級食材だが、いかしゅうまいなどリーズナブルなものも家族全員の思い出の味である。安かろうが高かろうが、美味しいものを囲んで感動して、それを共有した、そんな思い出がある。これが大切なのではないだろうか。
家族だけでなく、面談する候補者の方々とのおつきあいでも同様。こうした食の共有は心と心を繋ぐ大切な時間となる。
美味しいものを囲めば、自然と笑みがこぼれる。
幸せを感じながら話をすれば、緊張もほぐれてお互いの人となりも見えてくる。心がほぐれてくるのだ。
彼らと食事をともにする時間は、決して「接待」という他人行儀なものではない。そこにあるのは食に対する感動という、大切な共通財産なのである。
2020年9月9日
武元康明